その少年には、帰る家がなかった。
幼い頃、両親は強盗に襲われ、命を落とした。
少年は孤児院へ引き取られたが、十歳になる頃にはそこを飛び出していた。
頼れる親類も、働き口も、蓄えもない。
少年はブリテインの裏路地で、パンを盗み、リンゴを盗み、時には通行人の小銭を抜き取って
生き延びた。
少年は、人を見ることに長けていた。
誰が急いでいるのか。
誰が自分の荷物を気にしていないのか。
誰が困っている少年を無視できず、誰なら声をかけられることさえ嫌うのか。
相手の目、指、足取り、声。
わずかなものを見聞きするだけで、人が次にどう動くのかが分かった。
初めは、今日を生きるためだけの盗みだった。
だが、失敗せずに日々を重ねるうち、少年は自分の才能を知った。
そしてある日、少年は市場を歩く一人の老人へ目をつけた。
身なりは質素。
護衛も連れず、歩みも速くない。
狙う相手を間違えたとは、少年は少しも思わなかった。
少年は老人へ近づき、その財布を盗んだ。
手応えはあった。
確かに盗んだ。
だが路地へ入って手を開くと、財布は消えていた。
振り返った先では、老人がこちらを見もせず、後ろ手に財布を振りながら歩き去っていた。
少年には、何をされたのか分からなかった。
ただ一つ分かったのは、あの老人が、自分よりはるかに上にいるということだった。
翌日、少年は再び老人を探し始めた。
