二人が入ったのは、小さな酒場だった。
老人がパンと温かなスープを頼むと、少年は料理が届くまで老人の指先から目を離さなかった。
「冷めるぞ、ボウズ」
「ボウズじゃない。それより、どうやって盗り返した」
「食事中に仕事の話をするものではない」
「食べ終わったら教えるのか?」
「さてな。まずは腹いっぱい食え」
ジルは疑わしそうに老人を睨んだ。それでも空腹には勝てず、やがて夢中でパンを口へ運び始めた。
老人は何も言わず、自分の皿から肉を一切れ、少年の皿へ移した。
食事を終えても、老人は少年を追い払わなかった。
外へ出る頃には日も傾き、路地には夜の冷たい風が吹き始めていた。
「今日はもう遅い。うちへ来い」
「何でだよ」
「さあな。帰る方向が同じなのかもしれん」
「俺がどこへ帰るかも知らないくせに」
「なら、なおさら都合がいい」
老人は振り返らずに歩き出した。
ジルはしばらくその背を見つめ、やがて数歩遅れてついていった。
少年は、今夜だけ泊まるつもりだった。
翌朝になれば、飯代分くらいは手伝っていくつもりだった。
そして少年は、これからも老人につきまとうつもりだった。
「なんだ、そんなに急ぐ用事でもあるのか?」
「べ、べつにそんなのねぇよ」
「どうせ住む家もないのじゃろ、昨日の部屋がをつかっていいぞ」
「そんなこと言っていいのか?」
「かまわん、どうせ空いているなら有効活用した方がいいじゃろ」
「ふん、ぜったいにジジイのネタをあばいてやる!」
老人は、少年を弟子にしたつもりはなかった。
少年も、弟子にしてほしいとは言わなかった。
二人とも、これが長い共同生活の始まりになるとは、まだ知る由もなかった。
それは、次の話である。
